賃上げ要件と従業員数のカウント方法|補助金申請での一般的な考え方

賃上げ・加点・要件

賃上げ要件と従業員数カウント:3つの要点

補助金の賃上げ要件を満たすには、対象となる従業員の範囲と人数の正確な把握が不可欠です。本記事では以下の3点を中心に解説します。

  • 従業員数のカウント方法:正社員・パート・役員など雇用形態ごとの扱いと、常勤換算の一般的な考え方
  • 賃上げ要件の基本構造:給与総額・最低賃金・事業場内最低賃金など、公募要領で定められる指標の種類
  • 申請前の確認ポイント:公募要領の読み解き方、労働保険・社会保険の記録との整合性、専門家への相談タイミング

執筆時点の一般的な情報をもとに整理しますが、制度ごとに定義が異なるため、必ず最新の公募要領をご確認ください。

賃上げ要件とは:補助金における位置づけ

賃上げ要件は、国や自治体が実施する補助金制度において、事業者に一定の賃金引上げを求める条件です。中小企業庁が所管する「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」「小規模事業者持続化補助金」などで広く採用されており、補助率の優遇や加点審査の対象となるケースが一般的です。

賃上げ要件の目的は、補助金を活用した設備投資や販路開拓の成果を、従業員の処遇改善につなげることにあります。公募要領では「給与支給総額を年率平均○%以上増加させる」「事業場内最低賃金を地域別最低賃金+○円以上とする」といった形で数値目標が示されます。

要件を満たすためには、対象となる従業員の範囲と人数を正確に把握し、賃金台帳や就業規則と整合性を保つ必要があります。従業員数のカウント方法は、制度ごとに細かく定義されているため、公募要領の該当箇所を丁寧に読み解くことが重要です。

賃上げ要件が設定される主な補助金

執筆時点で賃上げ要件が設けられている代表的な補助金には、以下のようなものがあります(詳細は各公式サイトでご確認ください)。

  • ものづくり補助金:給与支給総額の増加率、事業場内最低賃金の引上げ額を要件化
  • 事業再構築補助金:給与支給総額の年率増加、事業場内最低賃金の水準を加点・優遇の条件に設定
  • 小規模事業者持続化補助金:賃金引上げ枠として、給与総額の増加と最低賃金の引上げを要件化
  • IT導入補助金:一部の類型で賃上げ目標の設定を求める場合がある

各制度の詳細は、中小企業庁ミラサポplusで最新情報をご確認ください。

従業員数のカウント方法:一般的な考え方

賃上げ要件を満たすには、まず「誰を従業員として数えるか」を明確にする必要があります。公募要領では、対象となる従業員の範囲が定義されており、雇用形態や勤務時間によってカウント方法が異なります。

正社員・契約社員・パートタイマーの扱い

一般に、補助金の賃上げ要件では以下のような区分が用いられます。

  • 正社員(常勤従業員):フルタイムで雇用契約を結び、所定労働時間が週40時間程度の従業員。多くの制度で「1人」としてカウントされます。
  • 契約社員・嘱託社員:有期雇用であっても、勤務時間が正社員と同等であれば「1人」とカウントされる場合が一般的です。公募要領で「常勤」の定義を確認してください。
  • パートタイマー・アルバイト:所定労働時間が短い場合、「常勤換算」により人数を算出します。例えば、週20時間勤務のパート2名を「1人」と換算する方法です。

常勤換算の計算式は、公募要領に明記されています。一般的には「パート等の総労働時間÷常勤従業員の所定労働時間」で算出しますが、制度によって基準となる時間数(週40時間、年間2,000時間など)が異なるため注意が必要です。

役員・代表者の扱い

役員(取締役、監査役など)は、原則として従業員数にカウントされません。ただし、「使用人兼務役員」として労働契約を結び、給与と役員報酬を明確に区分している場合は、従業員部分のみをカウント対象とする制度もあります。

代表者本人(代表取締役、個人事業主)も、従業員数には含まれないのが一般的です。賃上げ要件の対象は「雇用契約に基づく従業員」であり、経営者自身の報酬は対象外となります。

出向社員・派遣社員の扱い

出向社員については、出向元・出向先のどちらで給与を支給しているかによって扱いが変わります。公募要領では「自社で給与を支給している従業員」を対象とする場合が多く、出向元が給与を負担している場合は自社の従業員数にカウントしないのが一般的です。

派遣社員は、派遣元企業の従業員であるため、派遣先企業の従業員数にはカウントされません。賃上げ要件の対象も、自社で直接雇用している従業員に限られます。

試用期間中・休職中の従業員

試用期間中の従業員は、雇用契約が成立していれば従業員数にカウントされるのが一般的です。ただし、賃上げ要件の計算期間(基準年度・目標年度)に在籍しているかどうかを確認する必要があります。

休職中の従業員(育児休業、介護休業、傷病休職など)は、雇用契約が継続していれば従業員数にカウントされる場合が多いですが、給与支給総額の計算では休職期間中の無給部分を除外するなど、制度ごとに細かなルールがあります。公募要領の定義を必ず確認してください。

賃上げ要件の主な指標と計算方法

賃上げ要件では、複数の指標が組み合わされることが一般的です。ここでは代表的な指標と、従業員数カウントとの関係を整理します。

給与支給総額の増加率

「給与支給総額」とは、対象となる従業員全員に支払った給与・賞与の合計額を指します。多くの制度では「基準年度と比較して、補助事業終了後○年間で年率平均○%以上増加させる」という形で要件が設定されます。

計算の際は、以下の点に注意が必要です。

  • 対象となる従業員の範囲(正社員のみか、パート等を含むか)を公募要領で確認する
  • 役員報酬、退職金、通勤手当など、給与支給総額に含めるか否かの定義を確認する
  • 基準年度と目標年度で従業員数が変動した場合の扱い(一人当たり平均給与で比較する場合もある)

従業員数が増減すると給与支給総額も変動するため、「一人当たり平均給与」や「常勤換算後の平均給与」で比較する制度もあります。公募要領の計算式を正確に理解することが重要です。

事業場内最低賃金の引上げ

「事業場内最低賃金」とは、申請事業者が雇用する全従業員のうち、最も低い時間給を指します。多くの制度では「地域別最低賃金+○円以上」という形で目標値が設定されます。

この指標では、パートタイマーやアルバイトを含む全従業員の時給を確認する必要があります。月給制の従業員については、所定労働時間で割り戻して時給換算し、最低賃金と比較します。

従業員数のカウントとの関係では、「最も低い時給の従業員が誰か」を特定するため、全従業員の雇用形態・勤務時間・給与額を整理しておくことが求められます。

最低賃金の地域差と確認方法

地域別最低賃金は都道府県ごとに異なり、毎年10月頃に改定されます。最新の金額は厚生労働省の最低賃金特設ページで確認できます。

複数の都道府県に事業所がある場合、事業場ごとに該当する地域別最低賃金を適用します。賃上げ要件の計算では、申請対象となる事業場の所在地に応じた最低賃金を基準とするのが一般的です。

公式・参考情報:一次情報の確認先

賃上げ要件と従業員数のカウント方法は、制度ごとに細かく定義されています。以下の公式サイトで最新の公募要領・ガイドラインを必ずご確認ください。

  • 中小企業庁:ものづくり補助金、事業再構築補助金、持続化補助金などの公募情報
  • ミラサポplus:補助金・助成金の検索、申請サポート情報
  • jGrants:電子申請システム、公募要領のダウンロード
  • 経済産業省:補助金制度の政策背景、関連法令
  • 厚生労働省:最低賃金、労働保険、社会保険の制度情報

自治体独自の補助金を利用する場合は、各都道府県・市区町村の産業振興部局や中小企業支援機関のサイトもご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. パートタイマーの常勤換算は、どの時点の勤務時間で計算しますか?

一般に、公募要領で指定された「基準日」または「計算期間」の勤務実績をもとに算出します。例えば「申請日の直前1年間の平均勤務時間」「決算期末時点の所定労働時間」など、制度によって基準が異なります。公募要領の該当箇所を確認し、賃金台帳や出勤簿と整合性を保つことが重要です。

Q2. 従業員数が年度途中で増減した場合、賃上げ要件の計算はどうなりますか?

多くの制度では「基準年度末」と「目標年度末」の従業員数を比較し、給与支給総額の増加率を算出します。年度途中の入退社がある場合、「期中平均従業員数」や「常勤換算後の平均人数」で計算する方法もあります。公募要領に計算式が明記されているため、該当箇所を確認してください。不明な場合は、事務局への問い合わせや専門家への相談をおすすめします。

Q3. 役員が実務を兼務している場合、従業員数にカウントできますか?

「使用人兼務役員」として労働契約を結び、給与部分と役員報酬を明確に区分している場合、従業員部分のみをカウント対象とする制度があります。ただし、税務上の取扱いや社会保険の加入状況との整合性が求められるため、就業規則・賃金台帳・登記簿謄本などで実態を証明できるよう準備してください。個別の判断は税理士や社会保険労務士にご相談ください。

Q4. 最低賃金の引上げ要件は、全従業員が対象ですか?

「事業場内最低賃金」の要件は、申請事業者が雇用する全従業員(正社員・パート・アルバイトを含む)のうち、最も低い時給を引き上げることを求めるものです。特定の雇用形態だけを対象とするわけではありません。月給制の従業員も時給換算して比較する必要があるため、全従業員の給与体系を整理しておくことが重要です。

Q5. 賃上げ要件を満たせなかった場合、補助金は返還しなければなりませんか?

制度によって取扱いが異なります。一般に、賃上げ要件を「加点審査の条件」としている場合、未達成でも補助金の返還義務は生じないことが多いですが、「交付決定の必須要件」としている場合は、未達成時に補助金の一部または全部の返還を求められる可能性があります。公募要領の「賃上げ要件未達時の取扱い」を必ず確認し、達成が困難と判断した場合は早めに事務局へ相談してください。

申請前に確認すべき注意点

賃上げ要件と従業員数のカウントに関して、申請前に押さえておくべきポイントを整理します。

公募要領の定義を正確に読み解く

「従業員」「常勤」「給与支給総額」といった用語は、制度ごとに定義が異なります。公募要領の「用語の定義」「対象経費」「賃上げ要件」の各セクションを丁寧に読み、自社の実態と照らし合わせてください。不明点があれば、事務局のQ&Aや問い合わせ窓口を活用することをおすすめします。

労働保険・社会保険の記録との整合性

従業員数のカウントは、労働保険(雇用保険・労災保険)や社会保険(健康保険・厚生年金)の加入記録と整合性を保つ必要があります。申請時に提出する賃金台帳、就業規則、保険関係書類が矛盾していると、審査で指摘を受ける可能性があります。

特に、パートタイマーの常勤換算や使用人兼務役員の扱いについては、社会保険労務士に相談し、労務管理の実態と申請書類が一致しているか確認することをおすすめします。

基準年度と目標年度の設定

賃上げ要件では「基準年度」(現状)と「目標年度」(補助事業終了後○年目)を比較します。基準年度の従業員数・給与総額は、決算書や賃金台帳で証明できるデータを用いるのが一般的です。

目標年度の設定は、事業計画の実現可能性と連動します。過度に高い目標を掲げると未達成のリスクが高まり、低すぎると加点審査で不利になる可能性があります。自社の成長計画と労働市場の動向を踏まえ、現実的な目標を設定してください。

賃金台帳・就業規則の整備

申請時には、従業員数と給与額を証明する書類の提出が求められます。賃金台帳、出勤簿、就業規則、雇用契約書などを事前に整備し、公募要領で求められる様式・記載事項を満たしているか確認してください。

特に、パートタイマーの勤務時間や時給、使用人兼務役員の給与区分など、カウント方法に関わる部分は明確に記録しておくことが重要です。

専門家(行政書士)に相談を考えるタイミング

賃上げ要件と従業員数のカウントは、労務管理・税務・補助金制度の知識が交錯する領域です。以下のような場合は、専門家への相談を検討してください。

  • 従業員の雇用形態が多様で、カウント方法の判断が難しい:正社員・契約社員・パート・出向社員などが混在し、常勤換算の計算が複雑な場合
  • 使用人兼務役員や代表者の扱いが不明確:役員報酬と給与の区分、社会保険の加入状況など、実態の整理が必要な場合
  • 複数の事業所で従業員を雇用している:事業場ごとの最低賃金、労働保険の適用単位など、制度横断的な確認が必要な場合
  • 賃上げ要件の達成可能性を事前に検証したい:事業計画と連動した給与総額のシミュレーション、目標設定のアドバイスが必要な場合

行政書士は、補助金申請書類の作成支援や公募要領の解釈について専門的な知識を持っています。労務管理の詳細については社会保険労務士、税務処理については税理士と連携しながら、総合的なサポートを受けることができます。

当社では、補助金申請に精通した行政書士が、賃上げ要件の確認から申請書類の作成まで一貫してサポートしています。ご不明点があれば、お気軽にお問い合わせください。

採択後の負担を減らす選択肢:補助金Manager

補助金の採択後は、実績報告書の作成、証憑書類の整理、賃上げ要件の達成状況報告など、継続的な事務負担が発生します。特に賃上げ要件は、補助事業終了後も数年間にわたって達成状況を報告する必要があり、従業員数の変動や給与改定のたびに再計算が求められます。

こうした採択後の手続き負担を軽減する選択肢の一つとして、補助金Managerがあります。補助金Managerは、実績報告書の作成支援、証憑管理、賃上げ要件の進捗管理など、採択後の事務作業をサポートするサービスです。

賃上げ要件に関しては、従業員数の変動や給与改定を記録し、目標達成状況を可視化する機能を備えています。公募要領で求められる計算式に沿って自動集計されるため、手作業でのミスを減らし、報告書作成の時間を短縮できます。

採択後の手続きに不安がある方、本業に集中したい方は、採択後の手続きの負担を相談してみる →

まとめ

賃上げ要件と従業員数のカウント方法は、補助金制度ごとに細かく定義されており、公募要領の正確な理解が不可欠です。正社員・パート・役員など雇用形態ごとの扱い、常勤換算の計算方法、給与支給総額や事業場内最低賃金の指標を整理し、労働保険・社会保険の記録と整合性を保つことが重要です。申請前に賃金台帳や就業規則を整備し、不明点は専門家に相談することで、審査での指摘リスクを減らすことができます。

採択後の実績報告や賃上げ要件の達成状況管理には継続的な事務負担が伴います。補助金Managerのようなサポートサービスを活用することで、手続きの負担を軽減し、本業に集中する環境を整えることができます。

関連記事:「補助金の実績報告書作成の流れと注意点」「事業場内最低賃金の計算方法と労務管理のポイント」「常勤換算の基本ルールと公募要領の読み解き方」


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の申請可否や採否を保証するものではありません。補助金・助成金の要件、補助率、上限額、締切等は公募回ごとに変わります。最新かつ正確な情報は、各制度の公式サイト・公募要領を必ずご確認ください。掲載情報は執筆時点のものです。個別のご相談は、当社の行政書士へお問い合わせください。

監修:トリプルナイン株式会社(行政書士在籍)